「ごはん、よそるね♪」
家でご飯をよそってくれる時、奥さんに言われる言葉です。実は結構前から違和感を感じていました。「よそる」じゃなくて「よそう」が正解なんじゃないの・・・?と。最初は、わざと違う言い方をしてウケを狙っているのかと思っていましたが、どうやらそんな感じでもなさそう・・・。
ツッコミを入れそこなって、かれこれ3年くらいの月日が経ちましたが、その前に「よそる」と「よそう」どっちが正解なのかしっかりと調べることにしました。
それではいってみましょう!
「よそる」と「よそう」正しいのはどっち?
結論からいうと、「よそる」も「よそう」もどっちも正しいとのこと。大辞林第三版にはこのように記載されています。
装る
〔「装う」と「盛る」との混交によってできた語〕
食物を器に盛る。よそう。 「御飯を-・る」
引用元:大辞林 第三版
装う
1.飯や汁を器に盛る。よそる。
「ごはんをもう一杯-・ってください」
2.飾りととのえる。しつらえる。
「中の間は院のおはしますべき御座おまし-・ひたり/源氏 若菜下」
3.船出・出発の準備・整備をする。
「おしてるや難波の津ゆり舟-・ひ我あれは漕ぎぬと妹に告ぎこそ/万葉集 4365」
4.ととのった衣服を身につける。よそおう。
「ぬば玉の黒き御衣みけしをまつぶさに(=完全ニ)取り-・ひ/古事記 上」
引用元:大辞林 第三版
「よそる」の解説には「よそう」、「よそう」の解説には「よそる」が入っているのが分かりますね。このことから、2つの言葉は同じことを意味していてどっちも正しい言葉であると言えます。
「よそる」の歴史
聞き慣れない「よそる」は、「装う」と「盛る」の混交語なんですね。ですので、「よそう」よりも新しい言葉ということになります。
とはいえ、100年以上前の辞書には既に掲載されていたそうなので、単純にマイナーな言葉なんですね。
実際に掲載されていた辞書は1886年(明治19年)の「改訂増補 和英英和語林集成 第三版」。この辞書には、「yosoru」として掲載されているようです。
残念ながら、掲載内容までは調査することができませんでしたが、分かり次第ご紹介しますね。
辞書ではありませんが、1928年の龍胆寺雄(本名:橋詰雄)の短編小説「アパアトの女たちと僕と」では、「御飯ふかしから僕の茶碗へよそりながら」というシーンがあります。
このことから、「よそる」という言葉は明治時代から実際に使われていたことが分かりますね!
「よそる」は間違ったインチキな日本語かと思っていましたが、ここで正しい言葉と分かってスッキリしました。知ったかぶりして「よそる」に対してツッコミを入れないで正解でしたよ(^.^)
違いはあるの?
2つの言葉は同じ意味合いの言葉ですが、掘り下げてみると両者には違いも色々とあることが分かりました。それぞれの違いについてみていきましょう。
漢字で書くと違いはあるの?
先ほどの大辞林での解説でも出てきましたが、それぞれ「よそる」→「装る」、「よそう」→「装う」と漢字で表現します。
やはり同じ意味合いの言葉だけあり2つとも「装」という漢字が使われます。違いは送り仮名だけ。
あまり文章で表現することが少ない言葉ですので、漢字で書くとちょっと違和感があるように思いますね。
使われる地域の違いは?もしかして方言?
使われる地域に違いはあるのでしょうか?地域によって、多く使われる地域・あまり使われない地域がありますが方言ではありません。
言語学者の篠崎 晃一氏によれば、「よそる」は関東を中心に使う人が多く、「よそう」は関西を中心に使う人が多いそう。ただし、関東の東京と千葉については例外で「よそう」を使う人が多いようです。
なお、中国・四国・九州では、「つぐ」、北海道・東北では「盛る」という表現が主流のようですね。
よそる よそう つぐ もる の違い
先ほど、「よそる」「よそう」に続いて「つぐ」や「もる」という表現も登場しましたね。「よそる」「よそう」はこれまでに解説したとおりですが、「つぐ」と「もる」についてみていきましょう。
注ぐ
器に物を入れる。特に液状の物をそそぎ入れる。
「お茶を-・ぐ」 「飯を-・ぐ」 [可能] つげる
引用元:大辞林 第三版
盛る
器に物を入れて満たす。
「御飯を-・る」 「玉盌たまもいに水さへ-・り/日本書紀 武烈」
引用元:大辞林 第三版
大辞林 第三版では上記のような解説がありました。「つぐ」については一般的には液状の物を注ぐ場合に用いられることが多いです。ですので、「ご飯をつぐ」という表現をしてしまうと「何か変だな?」と感じてしまうのかもしれません。
「もる」についても、基本的には他の3つの言葉と同じ意味ですが、山盛りにするというニュアンスが強い言葉になっています。マンガ日本昔話に登場する「山盛りご飯」をイメージすると分かりやすいでしょう。
ここまで、言葉の違いについて解説してきましたが、「よそる」の珍しさは、やはり興味深いところです。どのくらい珍しい言葉なのか気になったので更に掘り下げてみることにしましたよ。
掲載されていない辞書もある
先ほど「よそる」を辞書で調べたと書きましたが、実は掲載されていない辞書もあるんです。辞書もやはり人が作るものですので、全ての日本語が掲載されているわけではありません。
監修する人により、入れる言葉・外す言葉が出てくるものなんですね。書店で確認してみた結果、「よそる」が掲載されていない辞書は下記の4冊でした。
- 新明解国語辞典 第七版
- 明鏡国語辞典 第二版
- 現代新国語辞典 第五版
- 例解 新国語辞典 第九版
ちなみに、ネット上の辞書はいくつかありますが、下記の代表的な辞書5つには、全てに掲載されていましたよ。
代表的なネット辞書
- goo辞書
- yahoo!辞書
- コトバンク
- Weblio辞書
- 三省堂ウェブディクショナリー
傾向として、書店で売られている紙の辞書には、まだまだ「よそる」という言葉が掲載されづらいようですね。一方、ネット上の辞書では掲載されやすいようです。
やはり、掲載されていない辞書があるという時点で、「よそる」という言葉はあまり使われていないと考えて間違いないでしょう。更に、「マイナーかどうか」のもう一つの指標として、ネット上での検索ヒット数も調べてみましたよ。
ネット上での検索ヒット数は?
世界でも最も使用されている検索エンジン「グーグル」を使い、「よそる」と「よそう」の検索ヒット数を調べてみました。まずは、「よそる」と「よそう」の結果をご覧ください。
- よそる:475,000件
- よそう:14,100,000件
圧倒的に「よそう」の方がヒット数が多いことがお分かりいただけるかと思います。「よそる」はおおむね「ご飯をよそる」等に使われる言葉を意図して検索されていると思います。
しかし、「よそう」については、「予想」や止めておくという意味の「よそう」の言葉として検索されている可能性もあります。というわけで、「ご飯をよそる」と「ご飯をよそう」の2語を改めて検索してみました。
- ご飯をよそる:561,000件
- ご飯をよそう:1,940,000件
結果として、「ご飯をよそる」の方が「ご飯をよそう」の3分の1くらいのヒット数であることが分かりました。
以上の結果から、「よそる」という言葉は「よそう」よりも確実にマイナーな言葉であることが分かります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
まとめるとこのような感じになります。
- 「よそる」も「よそう」もどっちも正しい日本語
- 「よそる」は明治時代から既に使われていた
- 「よそる」は方言ではない
- 「よそる」「よそう」「つぐ」「もる」は地域によって使われやすい使われにくいがある
- 「よそる」が掲載されていない辞書もある
- 「よそう」に比べて「よそる」はマイナー
あなたがもし普通に「よそる」という言葉を使っていたら、誰かに「何、その言葉?」と指摘されたとしても今回の記事の内容をサラリと説明できますね!
普段何気なく使っている言葉でも、よくよく意味を調べてみると新しい発見があるもの。これからも、色々な言葉を調べてみたいですね。
以上、「よそる よそう どっちが正解?言葉の違いや歴史について徹底調査!」でした。
WRITTER :もやこう